レースを編む女

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フェルメール 「レースを編む女」

フェルメール 「レースを編む女」

The Lacemaker
制作年 1669〜70年頃
『赤い帽子の女』『フルートを持つ女』とともにサイズの小さい作品の1つであり、(板でなく)カンヴァスに描かれた作品の中では最も小さい。
手紙のやりとり、楽器の演奏、飲酒といったテーマから離れ、生産的活動に努める女性を単独で表している点で、他のフェルメール作品とは異なっている。
絵の各所に見える焦点のぼけたような描写(特に女性の手前の赤い糸に顕著に見られる)は、さらなる完璧な遠近表現をめざして、カメラ・オブスクーラというカメラの原型となる装置を用いて作画したことの影響と見なされている。

 

前方に置かれた聖書によって、モデルの作業は宗教色を帯びた伝統的かつ道徳的な雰囲気を漂わせています。
女性は縫子の作業着を身に着けておらず、これによりデルフトの小ブルジョワ階級に属することがうかがえます。
左側に置かれたクッションは裁縫の小道具を片づけるための道具入れです。
モデルの集中力と明るい灰色の背景によって強められた色彩の演出が素晴らしい、フェルメールの傑作です。

 

ルノワールはかつてこの作品を「世界で最も美しい絵画」と称していました。
オランダ芸術の中では、レースを編む女の主題は家事をする女性の美徳を描くものでありました。
前景の聖書は確かに道徳的・宗教的解釈を強調しているが、一方でこの作品はかの有名な「牛乳を注ぐ女」と同様に日常生活への深い沈潜を表したものです。
フェルメールは自分を取り巻く慣れ親しんだ物を観察し、作品の中でそれらを組み合わせることを好みました。

 

この作品はフェルメールによって描かれたものとして最も小型であり、その特徴的なサイズと、人物を中心としたレイアウトによって観る者に深い親密感を感じさせます。
人間の視覚的作用で起こる自然な遠近感を巧みに描写し、たとえば鑑賞者の注意が集中する女性の手許や、その手が織りなす綿密な作品は非常なち密さで描写されていますが、それ以外の部分は手前にあるものでも故意に
ぼかされています。そのような親密さを漂わせつつ、厳かな沈黙を感じさせる詩情が観る者に近寄りがたい崇高さを生み、美しい光の結晶となって我々を魅了しています。

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)

1632年〜1675年

フランドル派

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)

1632年オランダ生まれのフランドル派ヨハネス・フェルメール。

彼の生涯作品は35点ほどであると言われており、極端に少ない。

彼ははじめ物語画家として出発したのち、風俗画家に転向。

彼の作品の特徴として挙げられるのが、「フェルメール・ブルー」といわれる青色絵の具を使っていること。

当時金と同じくらいの価格で取引されていたという鉱石ラピスラズリを原料とする貴重な絵の具を、数少ない生涯作品のうち、24点もの作品に使っていたという。

絶対王政時代の17世紀ヨーロッパ。オランダは王を戴かず、経済の力で大国になった。海洋貿易、軍事、科学技術で世界を牽引し、文化・芸術も大きく花開いた。

 

「他国では王侯貴族や教会の占有物だった絵画が、フェルメールの生きた十七世紀オランダでは庶民の家の壁にもふつうに飾られていました。

フランス印象派より二世紀も先に、庶民のための芸術が生まれていたのです」(あとがきより)

 

フェルメール、ハイデンの風景画からは市民の楽しげな暮らしが見て取れる。

レンブラント、ハルスの集団肖像画は自警団の誇りと豊かさを、

ロイスダールの風車画はオランダ人の開拓魂を、

バクハイゼンの帆船画は東インド会社の隆盛と経済繁栄を伝える。

ヤン・ブリューゲル二世はチューリップ・バブルに熱狂した意外な一面を描き、

ステーンが描く陽気な家族からは、人々の愉快な歌声まで聞こえる。

 

フェルメールが生きたのは、こんなにも熱気あふれる“奇跡の時代”だった。

人々は何に熱狂し、何と闘い、どれほど心豊かに生きたかーー15のテーマで立体的に浮かび上がる。

 

『怖い絵』著者・中野京子が贈る《名画×西洋史》新シリーズ誕生!

 

絵画40点フルカラー掲載。

 

2022年開催『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』で来日中の『窓辺で手紙を読む女』の修復前後の絵も収録(「手紙」の章)。

本書を読むと、美術展の楽しみも倍増です!