制作年代:1655?1656年頃
技法:カンヴァス、油彩
サイズ:97.8×104.6cm
所蔵:デン・ハーグ、マウリッツハイス美術館
来歴:1876年、オランダ政府が購入したもので、当時はフェルメールでなくニコラース・マースの作品と信じられていた。
現存するフェルメール作品のうち、神話の登場人物を題材にした唯一のもの。多くの研究者がフェルメールの真作とするが、日本人研究者の小林頼子のように疑問を呈する研究者もある[3]。一番手前の人物がディアナ(頭上の三日月の飾りとウエストに巻いた動物の皮からそれと分かる)。ニンフの一人がディアナの足を洗っているのは、キリストが弟子の足を洗ったエピソードを思わせる。他にも前景の水盤(純潔の象徴)、アザミ(受難の象徴)などのキリスト教的シンボルが目につく。ディアナの隣のニンフが自分の足をつかんでいるのも、十字架に足を釘付けされたキリストの受難を暗示する。画面左端の犬(スプリンガー・スパニエル)は、現存するフェルメール作品に登場する唯一の犬である。修復前には画面の右上方に青空が描かれていたが、これは後世に描き足されたものと判明し、修復時に除去されている。また、画面の右端が切り縮められており、制作当初の画面は現状より12センチほど幅が広かったと推定されている[4]。
1632年〜1675年
フランドル派
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)
1632年オランダ生まれのフランドル派ヨハネス・フェルメール。
彼の生涯作品は35点ほどであると言われており、極端に少ない。
彼ははじめ物語画家として出発したのち、風俗画家に転向。
彼の作品の特徴として挙げられるのが、「フェルメール・ブルー」といわれる青色絵の具を使っていること。
当時金と同じくらいの価格で取引されていたという鉱石ラピスラズリを原料とする貴重な絵の具を、数少ない生涯作品のうち、24点もの作品に使っていたという。
絶対王政時代の17世紀ヨーロッパ。オランダは王を戴かず、経済の力で大国になった。海洋貿易、軍事、科学技術で世界を牽引し、文化・芸術も大きく花開いた。
「他国では王侯貴族や教会の占有物だった絵画が、フェルメールの生きた十七世紀オランダでは庶民の家の壁にもふつうに飾られていました。
フランス印象派より二世紀も先に、庶民のための芸術が生まれていたのです」(あとがきより)
フェルメール、ハイデンの風景画からは市民の楽しげな暮らしが見て取れる。
レンブラント、ハルスの集団肖像画は自警団の誇りと豊かさを、
ロイスダールの風車画はオランダ人の開拓魂を、
バクハイゼンの帆船画は東インド会社の隆盛と経済繁栄を伝える。
ヤン・ブリューゲル二世はチューリップ・バブルに熱狂した意外な一面を描き、
ステーンが描く陽気な家族からは、人々の愉快な歌声まで聞こえる。
フェルメールが生きたのは、こんなにも熱気あふれる“奇跡の時代”だった。
人々は何に熱狂し、何と闘い、どれほど心豊かに生きたかーー15のテーマで立体的に浮かび上がる。
『怖い絵』著者・中野京子が贈る《名画×西洋史》新シリーズ誕生!
絵画40点フルカラー掲載。
2022年開催『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』で来日中の『窓辺で手紙を読む女』の修復前後の絵も収録(「手紙」の章)。
本書を読むと、美術展の楽しみも倍増です!