The Astronomer
制作年 1668年ごろ
フェルメールの現存作のうち、作者のサインとともに制作年が記された数少ない絵の1つです。
(制作年が記載されているのは他に『地理学者』と初期の『聖プラクセディス』『取り持ち女』のみ)。
本作品は『地理学者』とサイズがほぼ等しく、両者は一対の作品、 もしくは連作として構想されたとするのが通説です。モデルについ ては確証はありませんが、フェルメールと同年の生まれで、同じデルフトの住人であった科学者アントニ・ファン・レーウェンフック(1632 - 1723)ではないかと言われています。
レーウェンフックは商売や役所勤めのかたわらアマチュア科学者として活躍し、自作の顕微鏡で 多くの微生物を発見し、微生物学の父と言われています。
フェルメールが 43歳で死去した後、レーウェンフックが遺産の管理にあたっていることなどから、2人の間には何らかの
交流があったと思われます。
天文学者は天球儀に向かっている。
その手前にあるのはアストロ ラープという、天体の角度を測る器械です。
机の上の本は研究 者のウェリュ(J. A. Welu)によって アドリアーン・メティウス著『星の 研究と観察』という書物であることが指摘され、その本の何ページが 開かれているかまで解明されています。
壁の絵は『モーセの発見』であり、ユダヤの民を導いたモーセは地理学・天文学にも縁のある人物だと解釈 されています。
1632年〜1675年
フランドル派
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)
1632年オランダ生まれのフランドル派ヨハネス・フェルメール。
彼の生涯作品は35点ほどであると言われており、極端に少ない。
彼ははじめ物語画家として出発したのち、風俗画家に転向。
彼の作品の特徴として挙げられるのが、「フェルメール・ブルー」といわれる青色絵の具を使っていること。
当時金と同じくらいの価格で取引されていたという鉱石ラピスラズリを原料とする貴重な絵の具を、数少ない生涯作品のうち、24点もの作品に使っていたという。
絶対王政時代の17世紀ヨーロッパ。オランダは王を戴かず、経済の力で大国になった。海洋貿易、軍事、科学技術で世界を牽引し、文化・芸術も大きく花開いた。
「他国では王侯貴族や教会の占有物だった絵画が、フェルメールの生きた十七世紀オランダでは庶民の家の壁にもふつうに飾られていました。
フランス印象派より二世紀も先に、庶民のための芸術が生まれていたのです」(あとがきより)
フェルメール、ハイデンの風景画からは市民の楽しげな暮らしが見て取れる。
レンブラント、ハルスの集団肖像画は自警団の誇りと豊かさを、
ロイスダールの風車画はオランダ人の開拓魂を、
バクハイゼンの帆船画は東インド会社の隆盛と経済繁栄を伝える。
ヤン・ブリューゲル二世はチューリップ・バブルに熱狂した意外な一面を描き、
ステーンが描く陽気な家族からは、人々の愉快な歌声まで聞こえる。
フェルメールが生きたのは、こんなにも熱気あふれる“奇跡の時代”だった。
人々は何に熱狂し、何と闘い、どれほど心豊かに生きたかーー15のテーマで立体的に浮かび上がる。
『怖い絵』著者・中野京子が贈る《名画×西洋史》新シリーズ誕生!
絵画40点フルカラー掲載。
2022年開催『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』で来日中の『窓辺で手紙を読む女』の修復前後の絵も収録(「手紙」の章)。
本書を読むと、美術展の楽しみも倍増です!