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文藝春秋
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江戸時代の漂流記は面白い
(2008-03-21)
本書の様な江戸時代の漂流記は実に面白い。
当時の厳しい鎖国社会を背景にして漂流者達の異文化との遭遇が驚きに満ちたものであろう事は想像に難くないし、
極寒の地で地球半周の距離を往復するという行程の中で漂流者達が次々と脱落していくのも壮絶である。
それにしても私が最も関心したのは、当時のロシアの東方進出にかける凄まじいエネルギー。
その間日本はのんびり眠っていたと言って良い状態であり、
この時期に樺太、千島を真剣に開発しておいたらその後はどうなっていただろうか?
余談ながら、江戸時代の漂流ものとしては、吉村昭著「漂流」もお薦めです。
人間の絶対的な孤独
(2007-04-27)
大黒屋光太夫を主役に据えた時代小説。
彼と部下16名の漂流は無論史実であるものの、本書は記録小説ではなく、
井上靖作品らしいテーマをもって描かれた、人間ドラマと言っていい。
井上作品には、強烈な「生きるよすが」を持っている人物が数多く登場するが、
本作における光太夫もまさにそういった人物として描かれている。
その「よすが」は言うまでもなく「生きて故国の土を踏む」という一点。
酷寒の大地の上で、彼は決然とその日を信じて、前を向いて生きてゆく。
しかし本作における主人公は光太夫だけでなく、おそらく漂流民16人全員だろう。
帰国する者、ロシアに残る者、そして死んでいった仲間たち。
はじめ想いを一つにしていたはずの彼らも、いずれ運命はそれぞれの方向を向き、
別々の道へ向かって行かざるを得ない。
”人間はそれぞれ独立した存在であり、心も体も、絶対的に孤独なものなのだ”
交錯する彼らの運命から、井上氏はそれを伝えたかったに違いない。
そして10数年の流浪の末に光太夫がたどり着いた場所で見たもの。
人の心の置き場とは一体どこにあるのか?
すべてが一酔の夢であったかのような彼の人生が、読者の胸に余韻を広げる。
人間性への希望と虚無感と
(2007-01-28)
天明2年(1782年)12月、伊勢の白子の浦を江戸へ向かって出た貨物船神昌丸は、嵐にあって漂流し、八ヶ月に渡って海上を漂ったのち、アリューシャン列島に漂着した。船長大黒屋光太夫以下16名の船員たちは、日本に戻るべく必死の努力を重ねるが、年月は過ぎ、ロシアの厳しい冬に一人ひとりと倒れていく・・・。数奇な運命をたどった日本人の実話に基づく冒険譚。
人の感情は根っこの部分で共通すればこそ、女帝エカチェリーナが光太夫の数奇な運命を聞き「ベドニャシカ(可哀相なこと)」と言い、読者もまた光太夫に共感できるのではないでしょうか? 100%善意から出たのではないにしても、漂流民の身柄を守り、日本に送り還す労を取るロシアの人びとの暖かさは、太古から脈々と人間性、というものが生きつづけてきた証しではないか、そんな希望を持ちました。
一方で、帰国する、という目標に彼らを駆りたてたものは何だったのか? 残ったものと、帰ったものと、それぞれの人生の意味は何だったのだろう、と生の虚無感にとらわれます。結局、与えられた条件の中で、最大限自分のやりたいように生を組み立てる、それ以上でもそれ以下でもないのではないか、そんなことを考えさせられました。
惜しむらくは当時の日本のシステムや人びとの生活に現代的な視点から疑義をはさんでいること。西欧中心主義の影が見え隠れします。江戸の人も与えられた条件をもとに考えて結論を導き出しているのにすぎないわけで、そのプロセスはロシアの人と変わるところはない。当時の彼らのプライオリティは何だったのか。幕府の考えかた、やりかたをそうした面から評価せずに、一方的に批判するにとどまっているのがやや残念でした。
人がいなければ歴史は存在しない、そんな当たり前のことを再認識させてくれる本。堅苦しいことを抜きにしても、単なる冒険譚として非常に面白いです。
鎖国時代の命がけの交際交流と国家を問いかける書
(2006-03-31)
大黒屋光太夫という、歴史的には形作られていない人物を、井上靖さんは自らの創造で、ひとつの歴史を作ってしまったと言う感じの本です。
僕は、大学時代にこの本を読みましたが、緒方拳主演の映画を見たことが、読むきっかけとなりました。
時代は、江戸時代末期。鎖国時代の日本に、北からロシアの脅威が襲ってくるというモチーフでした。
井上靖さんが執筆された当時は、東西冷戦の中で、北方領土をめぐる問題もあり、当時のソビエト連邦が脅威であり、日本にとっての仮想敵国。この本が歴史を現実に引き戻した感じでした。
大黒屋光太夫が、乗組員とともにロシアに連行され、帝都ペテロブルグへ。苦労の末、帰国したものの日本では罪人扱いされるが、ロシア艦隊が来日すると、彼は両国の橋渡しとなっていく。
そこには、国家とは何かを問いかけながら、国際交流の魁を痛感しました。
江戸時代の日本人のロシア大冒険記
(2006-02-25)
数ヶ月の漂流。その後アリューシャン列島に漂着→カムチャッカ→ヤクーツク
→イルクーツク…(順番合ってるかな?)
極寒の地での異国の人との越冬。言葉も習慣も食べ物も気候も何もかもが
違う世界。次々に死んでいく仲間達。果たして自分達は国に帰れるのか?
というか、生き続けられるのか?
ドキドキしっぱなしですよ。この本を読んでいる時は。想像を超えた世界。
しかも、実在した人物だなんて。はからずも彼らは十数年にも及ぶ大放浪
をすることになったわけですが、これってどうなんでしょ。
考えようによっちゃものすごく刺激的で楽しかったのではないでしょうか。
ま、当人達はそんな余裕などなかったのでしょうが。見知らぬ地で常に
極寒による死と向き合わざるを得ない毎日。先進的な欧米文化を目の当たり
にした江戸時代の外国人など見た事もない彼らは何を思ったんだろう?
江戸時代の日本人のロシア大冒険記。ワクワクしますよ!

