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集英社
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発売日:2006-01
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カスタマーレビュー ![]()
未来の生のために
(2008-03-20)
あるいは、この本を読む中で、例示の妥当性等々に突っ込みのひとつも入れたくなること
くらいはあるかもしれない。しかし、本書においてこのノーベル経済学賞受賞者の示す
「人間の安全保障human security」にかける悲壮なまでの熱意を笑うもの誰ひとりとしては
いないだろう。
教育、医療、核、貧困、民主主義……ここでなされる問題提起の数々は、今日の「人間の
安全保障」議論を形づくるものともなる。
「理論と実践とのあいだの貿易収支に、さほど大きな赤字はありません」のひとことは
感動的。
表現も比較的平易な本書は、他のレビューが言及するように、まさに中高生に手に取って
欲しい一冊。
知性の深み、道徳哲学の復権
(2007-05-16)
ひとことで言えば、素晴らしい本です。もちろん、細部を読み込んで、批判をすることはいくらでも可能でしょう。賞賛するにも批判するにも、しがいのあるものだという意味で、素晴らしいと言いたいと思います。
経済学を越えてさまざまな分野に影響を及ぼしているセンですが、個人的には道徳哲学・倫理学的なグランドセオリーの復権という観点から、評価したい。「人権を定義づける理論」の章は、圧巻です。とりわけ、ドグマチックな理想主義として敬遠されがちなカントの義務論が、人権の基礎づけにおいて、「理論と実践」の両方にわたって果しうる役割の可能性を、きちんと評価し、扱っています。実はこれ、カントの専門家でもできていない人が少なくないのです。倫理は法が機能するための広い土壌を形成するものである、という実りあるセンの議論を、近代法の法と倫理の峻別に固執している方々には、ぜひお読みいただきたい。
知識量の多さと目配りの広さは確かにすごいですが、学の本質は、その多さと広さを言い立てることではなく、どれほどの深さで対象を熟考し、吟味し、批判的に検討する思考の作業ができるかだと思います。その意味ではセンには、感嘆のため息しかないのですが、遠く及ばなくとも、その姿勢に学びたいものです。
これぞ知識の源泉 世界が待ち望んでいた知識人が彼です。
(2007-05-06)
アマルティア・セン、彼はインドが生んだアジア初のノーベル経済学受賞者です。最近高校の「現代社会」や「倫理」の教科書にも彼の名前およびその思想が記載されるようになってきました。インドがここの所絶大な経済発展を成し遂げていることは有名ですが、近い将来それを象徴する世界史上の人物として評価されるはずです。日本でも川本隆史を中心として熱心な紹介がなされ、「現代を代表する知識人」として定着しつつあります。
本書は各方面で出された小論を集めたものですが、我々がセンに望んでいる論考がまとまっていて値ある一冊になっています。特に「グローバル化」について述べた2つの章が抜群です。西洋中心主義的な狭量の歴史観をやすやすと、しかも高校の世界史でも習うような容易な実例を用いて打破します。そしてその視野の広さ。西洋と東洋の「知の大系」を十二分に理解した上で展開される、まさにグローバルな思考。彼は新しいタイプの、そして世界が望んでいた知識人なのです。
訳も素晴らしい。知人が代表作『自由と経済開発』(日経新聞社刊行)の訳のダメさを批判していましたが、実際訳出技術の拙劣さのために台無しになったり真価が曇ってしまった学術書の何と多いことか(これは映画の字幕にも言えることですが)。しかし本書は見事でかつ読みやすく、その意味でも多くの人に薦められる一冊です。「人間の安全保障」の第一は読み書き計算の基礎教育にあるとセンも主張しています。我々はすでにその潜在能力(ケイパビリティ)を得ています。ではそれを発揮して、これだけの好著ですから是非読んでみてください。
〈追伸〉平成18年度政経センター試験の大問1問目にこの「人間の安全保障」という概念が大々的に取り上げられました。このリード文は抽象論的・概括的ではありますが極めて良くまとまっています。本書を読む前にさらに手っ取り早く、という方にはお勧めです。
効用理論を超えて
(2007-02-10)
私の理解では、人間の安全保障の概念のポイントは以下の二つ。
(1)失業や病気などの「不利益をこうむるリスク」に目を向け、「安全な下降」を重視すること。
(2)「効用」ではなく、「自由」と「潜在能力」(capability:人間の生命活動を組み合わせて価値あるものにする機会であり、人にできること、もしくは人がなれる状態)を追求すべき価値とすること。
(1)は平時における開発とともに、困難な問題に直面した時のセイフティネットと(一つの手段としては教育による)人間の耐性を拡充すべきということだろうと思います。
(2)については、ベンサムに発し、近代経済学が価値基準とする、効用(utility)に対する根本的な批判であり、開発の文脈では、ベイシックヒューマンニーズアプローチの発展形態として、新古典派政治経済アプローチを乗り越えるものとして注目されています。
潜在能力アプローチに対しての批判は、本書「人権を定義づける理論」に見られるように、特に経済的な側面における「潜在能力」を重視すべきとした場合、人権概念が拡張されすぎるというものです。思想・信条の自由や、財産権といった、法で守られている人権に、潜在能力を発揮する権利を加えることは過剰だというものです。例えば、経済学者になれる能力をもったヌバ族の子供が、教育の機会や貧困故にそうなれないというのをおかしいというのは過剰であるということなのです。その批判には、「能力に応じて働き労働に応じて分配を受ける」という共産主義思想とのアナロジー、向上心の喪失へとつながる過度の保護という意味合いが感じられます。潜在能力アプローチはあくまでも機会の提供を意図するものでしょうが、この点についての理論の精緻化が望まれるのは確かです。
全世界の人々が潜在能力を生かす機会を提供するリソース(富を含めて)は地球上に充分あると思います。ただ、それが偏在しているだけです。
私たちにできること
(2007-02-03)
この本によれば、1996年から2000年にかけての世界の武器輸出のうちの81%に、国連安全保障理事会の5常任理事国が関与していたという。
このデータだけを見ても、現在テレビで毎日流されるニュースがいかに表層的な問題しか取り上げていないかということがわかるだろう。
テロにしても他のどんな問題にしても、その問題あるいは起こった事件そのものだけを見ていては、なにもわからないのだ。
必要なのは武器による報復ではなく、その事件が起こった背景についての知識を得、深く考えること、そして対話により行動することなのではないだろうか。
そうした知識のひとつとして、この本をひととおり読んでおくことは、あまりこうした問題についてまだ知らない人にとっては必要であるように思う。
平易な文章で書かれているので、中学生以上であれば(もしかしたら小学生でも)ちゃんと理解して読むことができるのではないか。
書店を見ていてもこの本が平積みにされていることは、まずない。
棚にさえ、ない。
しかし、気付いた人が、こうした本を紹介していくことが大切なのではないだろうか。

