講談社
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不安社会アメリカを映し出す
(2005-07-04)
とにかく、現代アメリカ文学の紹介者として、柴田元幸氏(あと村上春樹氏ももちろんですが)は欠かせない存在でしょう。
柴田氏がいなければ、アメリカ文学の日本での受容のされ方も、大きく違ったものになっていたはずです。
本書は、「破滅」「組織」「勤労」「親子」といったテーマ別に、アメリカ文学を論じています。
文学とは、社会の顕在化していない「不安」をあぶりだすことができるものだと、私は思っています。
アメリカの場合は、特に本書で『フランクリン自伝』がその代表とされている、「自分を創り上げ、アメリカンドリームを達成する」ことを頂点とするシンプルな自己創出→栄光達成のドラマが、もはや成立し得ない不安な社会であるというアメリカ社会の真実を、本書はアメリカ文学の作品を通じて、学ぶことができます。
福田恒存氏の「一匹と九十九匹」ではないですが、繁栄から圧倒的に取り残された人々(アメリカの場合は日本と違ってそれがマイノリティではなく、多数派であることが重要なのですが)を表現することは、巨大娯楽産業となってしまったハリウッドでは困難であり、文学こそがその中心的役割を担っているのではないでしょうか。
本書の魅力は、そんな文学の役割を明確に、アメリカ文学をほとんど読んだことの人にもわかりやすい文章で解きほぐしていることです。
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同じように悩む人たちがいるという安心感
(2004-06-12)
ヘンリー・ミラーの『北回帰線』が食べることに固執した小説だとは知らなかったし(もちろん性の求道者という側面はあるにせよ)、アメリカ文学における幽霊の正体とはしばしば自分であるという指摘もいちいちもっともだと思う。破滅は「アメリカの裏切り」がもたらすという一節にはしびれた。
一番、感心したのは「建てる」。「自己創造の意志が外の世界に投影されるとき、アメリカ文学では『館』を建てる(あるいは買う)という形をとることが多い」(p.74)として、最も有名なself-made manであるフランクリンの自伝と対比させる形でフォークナーの『アブサロム、アブサロム』を読み解き、そうやって建てた家は大邸宅ではあってもけっしてhomeではなく「自分をゼロから作り上げようとした男が、人と人を隔てるきわめてアメリカ的な要素によって滅ぼされる」(p.83)とまとめる。アメリカ文学はhouseは成立してもhomeは成立しにくい文学なのだ、とも。それは「基本的に人と人が向き合うよりも、人が人に背中を向けて世界と向き合う文学だから」(p.84)。
ラジオというかつて400ドルもする耐久消費財のチャンピオンだったモノが、80年代には35ドル程度ながらもプアホワイトにとっては逆にささやかな贅沢品となっているという変遷を描き「前者はアメリカという国が自信に満ちていた時代の華やかさとその陰にあった不安を、後者はアメリカという威信がとうに失われた時代の喪失感を体現している」という「ラジオ」も構成が見事。
一番、読みたくなったのは、たしかバート・ランカスターが主演した『泳ぐ人』』(1968)の原作だったThe swimmer(John Cheever)。郊外生活者が隣の家のプール、そのまた隣のプールと泳いでいたら月日がものすごい速度で経っていたという短編だ。
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内容の濃い一冊
(2002-05-03)
現代アメリカ文学翻訳の第一人者である柴田元幸氏がトウェインやメルヴィル
といった古典からオースターやパワーズといった現代の作家までを取り上げながらアメリカ文学を俯瞰する。エッセイ風に書かれたものであるにもかかわらず、読後には鮮烈な印象が残る。それは柴田氏が米文学を「教養」とか「高尚な趣味」などという排他的なものではなく、現代を生きる我々にとってアクチュアルな問題を含んだものという視点を持っているからだ。どの章も面白かったが、グローバル資本主義と現代文学のアナロジーを論じたエピローグは特にスリリングだった。
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「生半可な学者」から「優秀なアメリカ文学者」へ
(2001-05-05)
柴田元幸氏は「現代アメリカ文学」の翻訳家・紹介者として有名かもしれないが、ここではハーマン・メルヴィル、ヘンリー・ジェイムズ、エドガー・ポーといった「古典」作家に果敢に挑戦されている。わたしは仕事上、アメリカ文学関係の研究書を読む機会が多いのだが、これほどコンパクトでありながら中身の濃い本にはいまだかつてお目にかかったことがない。(特にウィリアム・フォークナー、ヘンリー・ミラーに関する言及には大変感銘を受けた。そしてこうした作家の名作を柴田訳で読めるのが大変ありがたい。)本書は編集者の企画の勝利だと思う。(同じ編集者として、この本を企画した編集者氏を心より尊敬する。)本書を読むと、柴田氏はもはや「生半可な学者」などではないことがはっきりわかるはず。「優秀なアメリカ文学者」として、柴田氏のますますのご活躍を期待する。
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もっとピンポイントで書いてもよかったのでは?
(2000-11-30)
キーワードを示して、それに相応しい作品をいくつか挙げて分析する、 というスタイルなんだけど、歴史上のすべてのアメリカ文学を対象にしているようで、 さすがに新書では分量的に無理があって駆け足な印象でした。 ま、タイトルも「レッスン」だし、作者も後書きで、「必ずしも訳書、原書にあたる必要は無く、この本を きっかけとして楽しいことが生じてくれればいい」なんて気軽なことをおっしゃっているので、 気楽に読まさせていただきました。とはいえ、幾つか手に取ってみようという気にはなりましたよ。
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